※タイトルとキャラを指定していただいて書いた話※


「笠松くん、せっかく大学デビューしたんだからもうちょっと頑張った方がいいよ」
「何をだよ」


ちら、と講義前の大教室で談話中の男2女2のグループに視線を送ると笠松くんは罰が悪そうな顔をして黙ってしまった。
入学後初めての授業で、まだ友達もおらずどこに座ればいいのかと入り口で立ち尽くしていたとき、同じように反対側の入り口で辺りを見渡していた笠松くんとたまたま目が合ってそのまま流れで隣同士で座って以降、一緒に受けているこの授業。高校3年間同じクラスで、他の女子より免疫がちょっとあるだけ。むしろ未だに目が合うことの方が珍しい。あのとき、知っている人がいたことに安堵した勢いで無理に隣に座らせてしまったかなあなんて少し反省するくらいには。
あれから数ヶ月が経って私自身に男女含めて友人ができた今、笠松くんもこうして律儀に私に付き合ってないで友人関係をどんどん広げていってほしいと思う。余計なお世話かもしれないけど彼の行く末が少し心配だったりする。


「笠松くん、女の子苦手でも好きなタイプくらいあるでしょ?どういう子?」
「はあ!?なんだよいきなり」
「だって、私とずっといたら誤解生むかもしれないし」
「誤解?」
「私と笠松くんが付き合ってる的なやつ」
「それ、この間聞かれた。別の授業で同じグループになった奴らに」
「うそ、マジで」


危惧した通りのことが既に起きていたことを知り頭を抱える。せっかく笠松くん、いくら女の子が苦手だといってもモテないことはないと思うのに、私とそういう誤解があったら女の子と話す機会そのものが減ってしまうのではないかと思っていた。


「別に心配しなくても、グループワークとかで一緒になった女子とはそれなりにやってる、はず」


私の内なる心配を察してか笠松くんがぽつりと零す。最後の台詞がちょっと怪しいけど、彼なりにやっているらしい。私と笠松くんが一緒に授業受けてるのはこの時間だけだし、他はたまに鉢合わすくらいしか喋らないし、やっぱり余計なお世話だったかな。


「つーか、お前はどうなんだよ」
「私?男女問わず仲良くやってると思うよ。ほら、あそこにいる子たちとか」


先程とは違う男女のグループに目をやる。違う授業で仲良くなった人たちだ。その中の一人の女の子が私の視線に気づき、手を振ってくれた。女の子が手を振っていることに気づいた隣にいた男の子も。私も同様に振り返し、ね、と同意を求めようと笠松くんを見ると彼は思い切り顔を逸らしていた。ほんとにうまくやれてるんだろうか。


「まあ、とりあえず、今後も付き合ってるのかって聞かれたらちゃんと否定しなきゃだめだよ。分かってると思うけど」


あとそもそもそう疑われないように笠松くんももう少し頑張ってほしい。自分のためにも。これはあまり言うとさすがにしつこいだろうから胸の内で呟いておく。
しかし、返事がない。もしかして既に説教臭かった?でも女の子慣れについてはともかく、今のは当たり前のことのはず。だって、別に笠松くんとは、


「オレが好きでここにいちゃだめかよ」


笠松くんが振り向く。拗ねたような、怒ったような顔で、口をへの字に結んで睨んできた。まさかそんな顔をされるとは思ってなくて言葉に詰まった。笠松くんとはわりとどんな事でも言い合える仲になったけれど、ここまではっきりと目が合うのは初めてだった。
逡巡の後、念を押すようにゆっくりと答える。


「笠松くんがいいなら、いいんだけど」
「じゃあ別にどう思われようがいいだろうが」


再びそっぽを向かれてしまい、タイミングの悪いことに授業が始まってしまったためこれ以上口を挟むことはできなかった。仕方なしに顔だけは前に向けるが、意識は隣の笠松くんに奪われたままだ。
なんだか、おかしい。予想もしていなかった展開へ事が進んでいるような気がする。考えすぎだろうか。それなら、どうして、笠松くんの顔を盗み見ることすらできないんだろう。教室の前方に設置されている時計の秒針が進めば進むほど漠然とした不安と緊張だけが色濃くなっていくが、その行く末は未知のままだ。
ああ誰か、笠松くんとの関係がどこにどう終着するのか教えてください。



2018.9.23
Thanks:みこちゃん

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